今回は、「トリス<クラシック>」の話をさせてください。
この価格帯で、ウイスキーの味わいの深みや厚みを出そうと考える時、われわれブレンダ―は、原酒の目利き、すなわち、セレクト技術が問われます。
やりがちなのは、“とにかく香味の強いものを少量加えてアクセントをつけよう”というものです。
けれど、香味が強ければ何でもいいかといえばそうではありません。日本料理の“出汁”にたとえて言えば、「薄い出汁に、ピリッと唐辛子が利いている」
そういうウイスキーに出会ったことはありませんか?
香味のコントラストは強いものの、深みに欠けるウイスキーです。否定はしませんが、私たちの目指すものではありません。
では目指しているものは何か?
料理のたとえを続けるなら、出汁のかすかな旨味に支えられた素朴な旨さ―。
このようなウイスキーは、唐辛子の利いた薄い出汁と比べると、いかにもコントラストが弱く、派手さがありません。
けれど、バランスの良さがある。これを言い換えるなら、“飲み飽きしない深みのある旨さ”です。
トリストリス<クラシック>が目指したのはこれでした。
ブレンドのキーとして用いたモルト原酒は、“スパニッシュオーク樽モルト”と、オイリーな香味の“白州モルト”です。
スパニッシュオークに由来する熟成香を生かしつつ、オイリーな白州モルトが淡い香味ながらもボディに厚みを与える。そうして生まれるのは奥行きと立体感のあるバランスの良い香味です。
ブレンドを手がけたのは、ブレンダ―室の若手、土肥真路(*)です。
「テストブレンドを重ねる際、いつも念頭に置いていたのは、ソーダで割ってもくずれないバランスの良さ。ハイボールにした時に引き出されるウイスキーならではの味わいです」
かく言う土肥にとって、トリス<クラシック>は、一つの製品のブレンドを一からつくりあげる初仕事となりました。
「バーテンダーの皆様には、この新しいブレンドで“クラシックなトリハイ”をおつくりいただければ光栄です。」なにとぞ、御贔屓にしていただければ幸いです。
ふくよ しんじ
サントリースピリッツ株式会社 チーフブレンダ―。
1961年、愛知県生まれ。2009年より現職。
*どい しんじ
サントリースピリッツ株式会社ブレンダ―室。
1985年、山形県生まれ(東京育ち)。2013年より現職。
『ウイスキーヴォイス』2015年 冬 52号より出典