水大辞典

知っているようで意外と知らない「水」のことが分かる! 水大事典。「水とからだの関係」や「硬水と軟水の違い」など、水のいろいろが満載です。
監修:東京大学総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座

旅する水

夏だけのカラハリ砂漠の宝石〜オカバンゴ川

アフリカ南部、ボツワナを流れるオカバンゴ川は、乾季である夏に氾濫し、砂漠地帯を地上最大級の内陸湿原へ一変させます。この湿原は野生生物にとっても人間にとっても貴重なオアシスとなり、豊かで多様な生態系が育まれます。最も乾いた季節に、水が突然やってくると、植物が一斉に芽を出し、砂漠の地中で夏眠していた魚や水生生物が活動をはじめ、水深が深い地帯にはパピルスという植物も群生します。水辺には、平原を旅してきたヌーやシマウマ、アンテロープ(シカに似たウシ科の動物)などの大型草食動物の群れがたどり着き、多くの鳥たちが集います。それを狙って、ヒョウやチーター、ハイエナ、リカオンなどの肉食獣もやってきます。ライオンにとって、水と食糧が豊富なこの時期は、出産のチャンスです。水域が広がって、カバやナイルワニも至るところに顔を出し、ゾウは水遊びに興じます。
このような光景はまさに「カラハリの宝石」とたとえられています。

オカバンゴ川の場所

オカバンゴ川の場所

1600年の水の旅〜ロプ・ノール湖とタリム川

「ホータン(和田)から西では川は西に流れてアラル海に注ぎ、ホータンから東では東に向かいロプ・ノール湖に注ぐ」。紀元前120年ごろ、西域から戻った張騫(ちょうけん)が武帝にこう報告したことが『史記』に記されています。『漢書』に「広さは300里、湖水は澄み、冬夏を通じて水位が安定し、無数の水鳥が湖面に生息する」と書かれているロプ・ノール(羅布泊)は、古代中国では塩沢、蒲昌海と記された塩水湖で、「ロプ・ノール」もモンゴル名で「ロプにある湖」を意味します。
アラル海と並列に語られるくらいなので、かなり大きかったと考えられており、一説には日本の本土の9倍の広さだったといわれています。古代中国では、ロプ・ノール湖の水は地中を深く浸みて積石山(青海省のアムネマチン山)の下に流れ込み、黄河の水源になると信じられていました。
そのロプ・ノールの湖畔に、シルクロードの古代都市、楼蘭(クロライナ)は栄えていました。
東トルキスタンのタリム盆地は、地理的な空白が近年まで続いた場所です。中国の文献に登場し、その存在だけは知られていた楼蘭と幻の湖ロプ・ノールが、つい最近までどこにあるかは定かではありませんでした。というのも、6世紀以降、この地域一帯は広範囲にわたって放棄され、無人の廃墟と化していたからです。そのため、19世紀後半には多くの探検家が幻の古代都市発見の夢を胸に抱き、この地をめざしていました。

水を吸っては吐く天然ポンプ〜トンレサップ湖

今から5000年前に海面上昇によって生まれたトンレサップ湖は、カンボジアの西部にある東南アジア最大の湖です。この湖は、まるで呼吸するかのように、雨季の終わりにふくらんで、雨季が終わると少しずつ水を吐き出し始め、乾季には縮み、まるで天然のポンプのように、カンボジアに水を供給しています。

1)
乾季と雨季の差

カンボジアでは5〜10月上旬のモンスーンが雨季にあたります。メコン川の水位は10メートル以上上昇します。9〜10月、メコン川の濁流は、合流するトンレサップ川の流れを巻き込んで逆流し、トンレサップ湖に流れ込みます。その水量は、湖を溢れさせ、面積は最大で5倍にまで拡大、その水位変動は世界最大級です。
水を貯えた湖は、10月を過ぎると、川の流れを元に戻し、乾季に入ると、今度はメコン川へおだやかに給水しはじめます。トンレサップ湖の恵みの水は、乾季のメコンデルタを潤すので、この地域は世界有数の穀倉地帯となっています。

乾季の面積 2500〜3000平方キロメートル
乾季の水深 約1メートル
雨季の面積 1万1000〜1万3000平方キロメートル
(最大1万8000平方キロメートル)
水深 約10メートル

【参考文献】
清水靖夫/著 『世界情報地図2005年度版』 日本文芸社
マルク・ド・ヴィリエ/著 鈴木主税・佐々木ナンシー・秀岡尚子/訳 『ウォーター 世界水戦争』 共同通信社
ボツワナ政府観光局
(http://www.botswanatourism.co.bw/)
ナショナルジオグラフィック「砂漠の中のデルタ地帯」
(http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/
feature/0412/index4.shtml)
EORC地球観測利用センター「地球が見える 伸縮自在な巨大湖:トンレサップ湖」
(http://www.eorc.jaxa.jp/imgdata/
topics/2004/tp040408.html)
高橋裕/編 『川の百科事典』 丸善
貴重書で綴るシルクロード
(http://dsr.nii.ac.jp/rarebook/06/)

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