水大辞典

知っているようで意外と知らない「水」のことが分かる! 水大事典。「水とからだの関係」や「硬水と軟水の違い」など、水のいろいろが満載です。
監修:東京大学総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座

砂漠(沙漠)の知恵

砂漠の気候

砂漠は地球上の面積の6分の1を占めています。世界最大のサハラ砂漠は大西洋から紅海までの5000キロメートルにも及びます。日中の気温は日陰で25度、日なたでは40度以上、リビアでは最高気温58度という記録もあります。しかし、乾燥して雲も少なく夜間の放射冷却が激しい砂漠では、夜になると冷えるため、1日の寒暖差は20度以上にも達します。たとえば、暑いというイメージのあるサウジアラビアでの1月(冬)の平均気温は15度前後ですが、最低気温は地域によっては零度以下になります。そのため、霜が農作物に被害を与えることもあるのです。
砂漠の定義は多様で、一般に年間降雨量が200mm以下と言われていますが、降り方が一年を通して偏りがあるのも砂漠や乾燥地の特徴です。嵐やにわか雨、雷雨によって、1日で年間降雨量の半分以上が降ってしまうこともあれば、またその降り方も局地的です。そのため、乾燥地帯でありながら、洪水が起こり、干ばつと同様に集落を破壊することもあります。一度、干ばつが起これば、3〜4年にわたる場合もあります。こうしたことから、砂漠では水がないということだけでなく、水を貯めておけないことも、人々の生活を難しくしているのです。

ところで、砂漠はなぜ回帰線上に多いのでしょう?
回帰線の緯度は地軸の傾きの角度になるため、夏至の太陽は、ちょうどこの真上にきます。日射量が多く、また下降気流が高温で乾燥する中緯度高圧帯(南北両半球の緯度30度付近を中心にできる気圧の高い地帯)ともほぼ一致します。そのため、回帰線に沿って砂漠が生まれるのです。 アラビア半島の場合は、およそ2万4000年前に多雨な時代が終わって乾燥し始め、砂漠状態になったのは1万5000年前といわれています。

世界の砂漠分布図

世界の砂漠分布図

砂漠の水瓶〜オアシス

砂漠では可能蒸発量が降水量をはるかに上回ります。たとえば、中央アジアの敦煌では、年間降水量30ミリメートルに対して、可能蒸発量は2600ミリメートルというデータもあるほどです。 砂漠の近くに積雪量の多い山があると、雪どけ水は、土壌深くに浸透し、砂漠土壌の下にある水を通しにくい粘土層に達して、砂漠の地下に溜まります。この水が蒸発したあとの砂は、塩が残るため白くなりますが、これが一つの「砂漠で水の出る場所」の目印です。深層に蓄えられた水量豊かな地下水が湧き出すところ、これがオアシスとなるのです。

張り巡らされた地下水路〜カナート

乾燥地帯で広くおこなわれている取水方法がカナートという地下水路です。カナート(ギリシャ・ペルシャ・アラビア)、カレーズ(アフガニスタン・パキスタン)、フォガラ(アルジェリア・ナイジェリア)、フォラジ(オマーン)、レッタラ(モロッコ・チュニジア)、坎児井(カンアルチン/中国・中央アジア)など、地域によって呼び名は変わりますが、基本的にシステムはどこも同じです。カナート発祥の地とされるイランでは、紀元前8世紀には既にカナートが造られていたといわれています。

カナートを造るには、最初に地下の帯水層に届く第一の井戸(母井戸)を掘ります。次に母井戸の横から伸びるトンネルのような地下水路を造って水を導き、地下水道上に数10メートル〜数100メートル間隔にいくつもの縦穴を設けていきます。トンネルを地中深くに造ることで、砂漠の太陽による蒸発から水を保護することができるのです。このトンネル部分は、メンテナンスのために人が歩けるようになっています。また、水路に緩やかな傾斜をつけることで、水源から遠く離れた場所まで動力なしで水を流すことができるようになっています。

乾燥地の街にはカナートが張り巡らされており、トルファン(吐魯番/中国)では、その数1000以上、総延長3000キロメートルになるといわれています。1本のカナートの規模は地域によって異なりますが、モロッコやイランのように40キロメートル以上の長距離のものもあります。
しかし、カナートは建設も大変なら、維持と管理も大変です。土砂の掘削に非常に時間がかかるだけでなく、縦穴部分に蓋がないため、年に数回は落ちた土砂をさらう必要があるのです。また、水害が起こった場合、そこを掘り直さなければ機能しなくなりますし、水源の水位が下がれば、母井戸も掘り下げる必要がでてくるのです。

カナートの構造

カナートの構造

新しい給水技術

砂漠でも都市への人口集中や、水源の涸渇などで、新たな水の供給源が求められています。塩水の淡水化プラントの技術は、水の浄化に使われる技術ですが、砂漠の産油国では、水の供給源として導入されています。この技術には、2005年現在、蒸留水を作るシステムと、中空糸膜(※1)などで濾過するシステム、そしてこの2つを組み合わせたハイブリッド方式の3つがあります。
蒸留水を作るシステムは多段フラッシュ(蒸発)法と呼ばれ、熱効率をよくするため、減圧した水を加熱します。海水の水質を選ばず、大量の淡水を作れるのが特徴です。しかし、このシステムには多量のエネルギーが必要で、採用している国では、発電所の復水や油井から上がってくるガスが熱源とされているため、淡水化プラントと発電所や精油所が併設される場合が多くみられます。
濾過する方法は、圧力をかけた海水をフィルターで漉し出すもので、逆浸透(RO)膜方式(または、逆浸透法)と呼ばれます。多段フラッシュ方式よりエネルギー効率が優れていますが、海水中の微生物や析出物でフィルターが汚染されないように海水を前処理するなどのメンテナンスが必要とされています。

  1. ※1:

    中空糸膜とは中に穴が空いた(中空)糸状の繊維のこと。
    その穴の中に水を通して圧力をかけ、穴の中から外に向けてろ過するものと、反対に中空糸の外から中の穴に向けてろ過するものがある。

【参考文献】
藤田紘一郎/著 『癒す水・蝕む水』 NHK出版
マルク・ド・ヴィリエ/著鈴木主税・佐々木ナンシー・秀岡尚子/訳 『ウォーター 世界水戦争』 共同通信社
北野康/著『新版 水の科学』 日本放送出版協会
ロナルド・H・ベリー・タイムライフブックス編集部/著楠宏/訳 『ライフ 地球再発見シリーズ・氷河』 (株)西武タイム
日さくジオドクターの野帳から
(http://www.nissaku.co.jp/geo/)
ワールドフォーラム「イエメン」村上みどり/著

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