【第43回サントリー地域文化賞】霞ケ浦のシンボル「帆引船・帆引網漁法」を伝承する「霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動」(茨城)
霞ケ浦のシンボルである「帆引船(ほびきせん)・帆引網漁法(ほびきあみぎょほう)」。その保存や伝承のために、観光船の運航や操船技術の継承および後継者育成に力を注いでいます。さらに、フォトコンテスト等のPR活動、船や漁具の調査・記録など、幅広い活動を行っている点が高く評価され、「第43回サントリー地域文化賞」を受賞しました。
■「サントリー地域文化賞」とは?
※写真は、2019年度の様子
サントリー文化財団が、地域の文化向上と活性化に貢献した個人や団体に顕彰する「サントリー地域文化賞」。音楽、演劇、美術、歴史・伝統継承、国際交流、コミュニティ活動などを対象に毎年評価・顕彰を行い、1979年の創設以来、本年度の受賞者を加えると230件を顕彰、受賞者は全都道府県にわたっています。第43回となる今回は、茨城県の「霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動」を合わせた5つの団体が受賞しました。
■明治時代に生まれた霞ヶ浦を代表する「帆引網漁法」
「帆引網漁法」は、明治時代、霞ケ浦湖岸の坂村(現かすみがうら市)の住民によって発明されました。帆桁と漁網を綱で直結し、帆が受ける風力と漁網にかかる水圧、および船の自重でバランスをとりながら航行して漁をするという、世界にも類を見ない漁法です。風力を利用して、少人数で操業できることから地元漁師の間に広く浸透し、霞ケ浦のワカサギ漁・シラウオ漁が発展する重要なきっかけとなりました。最盛期には900艘を超える帆引船が操業していたと言われていて、風をはらんだ大きな帆がいくつも湖面に並ぶ様子は、明治から昭和にかけて霞ケ浦を代表する風景でした。
1960年代後半、エンジンを積んだトロール船の台頭によって帆引船は姿を消します。しかし1970年代には、慣れ親しんだ風景の消失を惜しむ声に応えて観光帆引船として復活しました。毎年夏から初冬にかけて行われる観光帆引船の定期操業は霞ケ浦の風物詩として地域住民に広く愛されており、現在ではその美しい姿と風景は筑波山と並ぶ地域のシンボルとなっています。
■「帆引船・帆引網漁法」を保存・伝承するための積極的な活動
観光帆引船の操業は、「霞ヶ浦帆引き船・帆引き網漁法保存会」(かすみがうら市)、「土浦帆曳船保存会」(土浦市)、「行方(なめがた)市帆引き船保存会」(行方市)が行っています。風向きや風力の変化に対する瞬時の対応など、帆引船の操業には高度な専門技術が求められることから、各保存会では長年にわたって、操船技術に関するマニュアルを作成するなど後継者育成・技術伝承に積極的に取り組んでいます。
また、帆引船の特長である優雅な姿を活かしたPR活動も盛んに行われています。「霞ヶ浦帆引き船フォトコンテスト」は、毎年県内外から多数の応募作品が集まる名物コンテストで、開催回数は2021年で20回を数えます。実物と同じ赤杉材を使って精巧に再現された「霞ヶ浦帆引き船模型」は、茨城県郷土工芸品に指定されており、模型船を組み立てる工作教室の参加者は、地域の子供たちを中心に1,500人以上にのぼります。
近年は、学術的な記録・調査への取り組みも進んでいます。2018年に「霞ケ浦の帆引網漁の技術」が国選択無形民俗文化財に選ばれたことを受け、土浦市、かすみがうら市、行方市の三市による調査委員会が立ち上がりました。現在、学識経験者や各保存会の会長らが委員となって、帆引網漁に関わる一連の技術を記録するとともに、そのメカニズムやモノ・人・知識などに関する調査を進めています。
霞ケ浦で生まれ、長く地域住民に愛されてきた帆引船・帆引網漁法が、3つの保存会を中心に展開されている積極的な保存・伝承活動によって、今後も末永く霞ケ浦のシンボルとして愛され続けることが期待されています。
これからもサントリーは地域文化の発展を応援していきます!
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▼関連リンク
・サントリー文化財団「地域文化賞」のサイト
・第43回 サントリー地域文化賞決定 (ニュースリリース)