【第45回サントリー地域文化賞】貴重な文学資料の調査・収集・保全を続け、「広島文学」の意義を発信する「広島文学資料保全の会」(広島県広島市)
広島市を中心とした近代の日本や世界の文学活動・交流の歴史的研究を目的として結成されたのが「広島文学資料保全の会」です。広島にゆかりの深い作家の文学資料を調査・収集し、「広島文学」としてその価値を高め、散逸の危機にあった資料を地域の文化的財産として守り、その意義を国内外に伝える継続的な取組みが高く評価され、「第45回サントリー地域文化賞」を受賞しました。
■「サントリー地域文化賞」とは?
※贈呈式の様子
サントリー文化財団が、地域文化の発展に貢献した団体や個人を顕彰する「サントリー地域文化賞」。全国各地で展開されている芸術、文学、伝統の保存・継承、衣食住での文化創出、環境美化、国際交流などの活動を通じて、地域の文化向上と活性化に貢献した団体、個人に贈呈しています。1979年の創設以来、40年以上にわたり、全国の地域文化活動を対象に評価を行い、原則として毎年5件の活動が選定されます。
■「広島文学」の意義を発信する「広島文学資料保全の会」
※栗原貞子記念平和文庫
広島は戦前には鈴木三重吉、倉田百三などを輩出し、戦後は大田洋子、原民喜、栗原貞子、峠三吉といった作家たちが原子爆弾による惨禍と対峙しながら、優れた文学を生み出してきました。「広島文学資料保全の会」は、広島ゆかりの作家、特に被爆作家たちによる肉筆原稿、書簡類、所有していた書籍等の資料の調査・収集を行っています。
「広島文学資料保全の会」の発足は1987年。広島市に文学館設立を求める市民運動として始まり、6千人の署名と文学資料2万点を集めましたが叶わず、資料は広島市立中央図書館に寄贈されることになりました。市はこれをもとに図書館内に「広島文学資料室」を設置しましたが、図書館は博物館などの資料保管目的の施設とは異なるため、専門の学芸員はおらず、収蔵庫もありませんでした。そこで、「広島文学資料保全の会」が、作家の遺族らが保有する資料を発掘・整理し、中央図書館等へ寄贈する橋渡し役を務めてきました。2009年には広島女学院大学の栗原貞子記念平和文庫開設に尽力。2022年には峠三吉の遺族が資料のより良い活用方法を検討し、全ての著作権管理を「広島文学資料保全の会」へ委譲しています。
■「広島文学」を後世に伝える
※峠三吉没後70年碑前祭(2023年)
「広島文学資料保全の会」は、市民が「広島文学」と出会い、より深く知るための場づくりにも大きな役割を果たしています。広島文学に関する本の出版を行うほか、年に数回、文学資料展・シンポジウム・交流会・朗読会・演劇・文学散歩などのイベントを実施。2002年から毎年8月15日に開催する「原爆・反戦詩を朗読する市民のつどい」では、文学作品と音楽を組み合わせたプログラムなど、様々な形で広島文学の魅力を紹介しています。また、平和記念公園にある峠三吉詩碑の前で行う朗読会や旧広島陸軍被服支廠(戦時中は軍服等の製造・貯蔵を担い、被爆直後は臨時救護所として使用された施設)で開催するトークイベントなど、広島の歴史を感じられる場所でのイベント活動も行っています。
※これまで手掛けた出版物
2015年からは、広島市と共同でユネスコ「世界の記憶」への「広島の被爆作家による被災直後の資料」の登録に向けた申請活動を展開。この活動を通して、広島に遺された文学資料は、人類が忘れてはならない歴史的文書であり記録であることを国内外に訴えるとともに、地域の文化的な財産であることをあらためて市民に伝えようとしています。
戦後70年以上を経た今だからこそ、その記憶を時代や地域を超えて、人々の感性に訴える文学の力が必要です。より多くの市民が「広島文学」の素晴らしさに触れるためのつなぎ役として「広島文学資料保全の会」は期待されています。
これからもサントリーは、日本の地域文化を応援していきます。
▼関連リンク
・サントリー文化財団「サントリー地域文化賞」のサイト
・第45回「サントリー地域文化賞」決定(ニュースリリース)
・「広島文学資料保全の会」のサイト(外部サイトにリンクします)